老年腫瘍学の用語は分かりづらいという意見をよく聞きます。これは、老年腫瘍学は老年医学領域の考え方をベースにはしているものの独自の発展を遂げているため、同じ用語を使っていても意味が違うことがあるからだと思います。以下、紛らわしいところを整理してみました。
Frailty
生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態。その定義や診断基準については、世界中の研究者たちによって議論されているにもかかわらずコンセンサスは得られていないが、通常は以下の3つの要素が含まれている。
- 身体的問題のみならず、精神・心理的問題、社会的問題も含まれている
- 加齢に伴って生じる
- しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている
参考文献
- WHITE BOOK ON FRAILTY; The International Association of Gerontology and Geriatrics (IAGG)(pdf)
- WHITE BOOK ON FRAILTY(日本語版); 日本老年医学会(pdf)
- フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント; 日本老年医学会(pdf)
- Hoogendijk EO, Afilalo J, Ensrud KE, Kowal P, Onder G, Fried LP. Frailty: implications for clinical practice and public health. Lancet. 2019;394(10206):1365-75.
フレイル(片仮名)
日本老年医学会が提唱しているFrailtyの日本語訳。
Frailtyの日本語訳についてこれまで「虚弱」、「老衰」、「衰弱」、「脆弱」といった日本語訳が使われていたため、“加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態”といった印象を与えてきた。しかし、Frailtyには、しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されており、日本老年医学会は、適切に介入すれば戻るという意味があることを強調したかったため、Frailtyの日本語訳を「フレイル」にすることを2014年に提唱している。
参考文献
Frail(英字)
老年医学領域と老年腫瘍学領域で異なる意味を持つ用語。
<老年医学の領域>
Frailtyと同義
<老年腫瘍学の領域>
ベストサポーティブケアの適応となる患者
- 筆者注:
一般的に、老年医学の領域では、“Frail”は“Frailty”(またはフレイル)と同じ意味で、健康な状態と要介護状態の中間に位置すると考えられています。一方、老年腫瘍学の領域では、全身状態の良い方から順番でfit, vulnerable, frailとすることが多いようです(“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置するとされている)。つまり、同じ“Frail”という用語を使っていても、老年医学では「健康な状態と要介護状態の中間」、老年腫瘍学では「一番状態の悪い患者」を指すことが多いので、理解するのが難しいのだと思います(老年腫瘍学では、中間の状態をvulnerable(ヴァルナラブル)と呼んでいることが多いです)。
参考文献
- Balducci L, Extermann M. Management of cancer in the older person: a practical approach. The oncologist. 2000;5(3):224-37.
- Balducci L. Geriatric oncology. Crit Rev Oncol Hematol. 2003;46(3):211-20.
- A G Pallis et.al. EORTC elderly task force position paper: Approach to the older cancer patient. Eur J Cancer. 2010 Jun;46(9):1502-13.